Sometime's Official Interview
4月から8月にかけてリリースされた3曲連続配信と、3回にわたって開催されたツーマンライブシリーズ「League」を軸に、攻めの姿勢を貫いた2022年のSOMETIME’S。その集大成と言える作品が、12月7日にリリースされる『Hope EP』だ。配信3曲に、新たな試みにトライした新曲2曲を加えた全5曲。サウンドはファンク、シティポップ、80’sポップ、ゴスペルなど、歌詞では男女の恋愛やホラー風味の物語、より大きな愛と希望の世界まで、創造の翼を自由に広げたスケールの大きな作品だ。『Hope EP』は、SOMETIME’Sの次の飛躍に向けたジャンピングボードにきっとなる。聴いてほしい。味わってほしい。
文:宮本英夫
――2022年の1年間を振り返ると、どんな思いがありますか。
TAKKI「3曲連続で配信リリースする中で、これもやってみよう、あれもやってみようということで、トライ&エラーの1年間だった気がします。課題も成果も含めて、これは良かったなという部分もあったし、希望的観測でやったことはあんまり実にならないんだなという部分もあったので、意図を持ってしっかりと曲を作る必要があるなということは、3曲配信していく上で気づいたことですね。それも含めて今回の新曲2曲は、サウンドのバランスも含めてかなりディスカッションをして、チームのスタッフ全員が意見をして出来上がった楽曲ですね。すごくいい感じに仕上がったと思います」 SOTA「メジャーデビューから1年が経って、“SOMETIME’Sって何なんだろう?”というものに対して、取っ掛かりをつかみたいというチャレンジの1年間だったように感じてます。3曲連続配信リリースと、ツーマンライブシリーズ“League”と、試行錯誤をしてきた中で、結局その答えは僕の中では見つからなかったという印象が強いです。ただ「Somebody」「Clown」「夏のMagic」の制作を経て、曲がりなりにもやり方が見えて来て、新曲の「Hope」と「Drug cure」を作る時には、一歩踏み込んだことができたと思います。そういう意味で、取っ掛かりになったなという気持ちはありつつ、“SOMETIME’Sって何なんだろう?”という問いへの答えは、まだ全然出てないですね」
――それは、アーティストが一生かけて解く問いではなかろうか?とも思いますけれど。
SOTA「まあそうなんですけどね(笑)。でももう少し、自分たちの中に指針みたいなものがあったらいいなと思っていたんだろうなと思います。今振り返ると。でも、そんなに簡単に出てこないもんですね」
――3曲連続配信曲は、『Hope EP』にすべて収録されているので、あらためて聞かせてください。アッパーなダンスチューン「Somebody」は、どんなテーマを持って作った曲ですか。
TAKKI「配信3曲に関しては、一貫して“イントロのある楽曲を”というテーマがありました。僕らの楽曲は、歌始まりが多かったり、ライブではセッションから始まったりするので、いわゆるメロディがあるイントロはそんなになかったんですけど、そこに対して作曲の段階からしっかり臨んでいこうというものの第一弾が「Somebody」でしたね。もともとこの曲も歌始まりだったんですけど、そこを丸々カットして、キャッチーなイントロで勝負しようという話をしたことがすごく印象に残ってます。あとはとにかくアッパーなチューンをということで、一貫してそんなに迷わずにできたかなと思います。ギターに関しても今年はテーマがあって、自分のスタイルとしてカッティングが得意ということがあるんですけど、そうではなくて “もっとギター好きが真似したくなるフレーズを作ろう”と思っていたんですけど、それってアッパーチューンになればなるほど難しいんですよ。「Clown」「夏のMagic」はミドルテンポだから、ミドルやスローはいろんなやりようがあるけど、しかもなるべく1本のフレーズで、オーバーダビングせずに作りたいという意図のもと、ギターのアプローチを考えていきました。個人的にはバランスが良くなったと思うし、ホーンとの絡み合いもありつつ、けっこうアカデミックなアプローチになったかなと思います」 SOTA「配信リリースの3曲を決める時に、何曲かデモを出して、TAKKIが最初に選んでくれたのが「Somebody」だったんですけど。ライブが決まっていたので、明るいライブチューンを作りましょうというのが取っ掛かりですね。いい意味でコミカルというか、歌もAメロの最初の10行ぐらいはコミカルに歌って(笑)。“変わらない景色彩る”からの3行はちゃんと歌うみたいな、そんなイメージでしたね。変な話、もっとちゃんと歌えば、歌詞の意味合いを立たせることもたぶんできたと思うんですよ。ただ今回は、曲の明るい方向性に合わせて歌ったところはあるかもしれない」
――そして2曲目が「Clown」。メロウなシティポップ感を前面に打ち出した曲です。
SOTA「サビのメロディだけでここまで来たような曲ですね。最初はもっとテンポが速くて、コミックバンドの曲みたいなデモで、これはさすがに出せないなと思っていたんですけど、サビのメロディが耳について離れなくて、テンポを下げたら行けるんじゃないかな?と思ったのと、今年はイントロをしっかり作るというテーマがあったので、そこともうまくシンクロできるんじゃないかな?と。それは永田こーせーさんのソプラノサックスのおかげですね。それまであんまりソプラノサックスの音像を認識してなかったんですけど、これか!と思いました。ユーミンの曲で聴いたことあるぞ、みたいな。「Clown」はサビメロが印象的だったから、もっとポップに届く曲かな?というイメージがあったんですけど、特にこのEPの中に入ると、意外とどっしりした立ち位置の曲になったなと思いますね。傾奇者路線で出したつもりが、いぶし銀系の位置に落ち着いたような気がします」 TAKKI「「Clown」は作詞作曲がSOTAなので、自分はギターのアプローチに集中できました。いつもは作詞とギターが半々ぐらいのモチベーション感が多いので、ギターだけになると、一個ギアが上がる感じがするんですよね。プレイに集中するだけでいいし、良くも悪くも歌詞のことは考えなくなるんで、自分の中でスイッチが全然違うんだなということにあらためて気づきました。サビのバックではただ歪ませてジャカジャカ弾いてるだけで、一人で試してる時は物足りなかったけど、実際にアンプを立ててエンジニアさんに入ってもらって録ってみたら、“これだけで十分ですね”ということになった。それが音楽の楽しみというか、すべての楽曲をちゃんとレコーディングさせていただける環境のありがたみを感じました。真空管アンプにこだわって生きて来て良かったと思います(笑)」
――3曲目は爽やかなサマーチューンの「夏のMagic」。これはTAKKIさん作詞作曲ですね。
TAKKI「作曲でクレジットされるのは初めてですね。もともとのデモは僕がコード進行を考えて、SOTAがメロディを乗せていたんですけど、当時の仮タイトルが「トム」で、トム・ミッシュっぽい、ちょっとチルっぽいサウンド感で作った曲だったんですよ。けっこう昔のデモなんですけど、“あれはいいと思う”とSOTAが言ってくれて、あらためてサビのメロディを考えて、コード進行も含めてリアレンジしてみるという流れでしたね。ただ自分は歌を歌わないんで、メロディを考えるのはめちゃくちゃムズかった。僕はそんなに大きく音符が飛ばないメロディが好きなので、メジャースケールっぽい楽曲が好きなんですけど、SOTAのメロディは洋楽上がりだから、ペンタトニックスケールっぽい動きをするんですね。そういうところをアナライズして、ペンタトニックをメインで作りつつ、自分の好きなメジャースケールの爽やかなサウンド感を入れたいなと思って作った曲です」 SOTA「初めて聞いた。この曲はずっとやりたいなと思っていて、アルバムの中の1曲っぽい雰囲気を持ってるけど、シングルとしても成り立つかもしれないという気持ちがありました。メロディに関しては、TAKKIがうまくアナライズしてくれたなっていう感じなんですけど、そんなに高い音符ではないのにライブがけっこうつらいんですよ(笑)。違う喉の使い方をする気がして、意外と難しいなと思ってます。でもめちゃくちゃ好きな曲です」 TAKKI「ギターは完全に自分の土俵で弾いてます。僕はもともと90年代から2000年代初頭の、空間系はラックで組んで真空管アンプを鳴らして、という世代のギターを聴いてきたので、インターフェースに直挿ししたようなクリーンなサウンドの、お洒落系のギターをすごくチープに感じてしまう嫌いがあったんですけど、研究の一環としてそういうプレイヤーをたくさん聴くようにしてから、それはそれの良さがあることに気づいたんですね。今はどっちかというと、お洒落なギターをいかに弾けるか?みたいな感覚になってきていて、この曲もそういう意識で弾いてます」
――そしてこのEPで初登場の新曲2曲。まず「Drug cure」です。作詞がTAKKIさん、作曲がSOTAさんと藤田道哉さん。
SOTA「僕のクレジットはなくていいぐらいの曲なんですけどね」 TAKKI「EPのための新曲をどうしようか?という話をした時に、藤田のほうから“やりたい曲がある”という表明があったんですね。最初はものすごい80’sっぽかったんですけど、でも面白い曲だから、ただのリバイバルにはならないように今の時代のサウンド感も更新して仕上げていこうかということになりました。それでSOTAが藤田と相談しながらメロを作って、僕もちょっと口出しして、節回しが独特な楽曲になりましたね」
――80'sっぽいキラキラした音像の、ファンキーなダンスチューン。でも古さは感じないです。
TAKKI「そもそも2022年自体に、80'sのリバイバルっぽい空気があるじゃないですか。ザ・ウィークエンドとか。そこの微妙な機微というか、“これだと90’sまで行っちゃってない?”とか言いながら、音楽を知ってる人たち同士の会話だからこそ、ちょっとしたスネアのリヴァーブの感覚が気になるとか、そういうのはありましたね。結果、最後の最後まで着地点が見えないままレコーディングに臨んだんですけど今回エンジニアをやってくれた照内紀雄さんという方が、“変に新しくするよりもっと80'sに寄せたほうが2022年っぽくなるよ”というアドバイスをくれて、今のサウンドになったんですね」 SOTA「録り音は古ければ古いほどいい、みたいな」 TAKKI「それをミックスの段階でモダンにしていく。“プレイのサウンド自体は80'sに寄せたほうが今っぽくなるんですよ”って、マジで目からウロコでした」
――この曲、ラップのパートがありますね。
SOTA「新しいチャレンジでしたけど、結局ラップも歌なんだなと思いましたね。音符をつけてるわけではないですけど、歌ってみるともっと上のキーがいいとか、声の質感とか、歌として考えなきゃいけないものだなということに気づかされました。歌っててめちゃめちゃ楽しくて、いいチャレンジをさせていただいたと思います」
――TAKKIさんの書いたリリックはかなりきわどい感じというか、意味深ですよね。
TAKKI「これも自分の中ですごくチャレンジでした。歌詞に関しては自由に書かせてもらうことが多いんですけど、今回は「ドラキュラ」というタイトルでデモが上がってきて、“試しにそのまま書いてみない?”という、話になりまして。そこから連想して、首筋に歯を立てるという行為が不倫というものと自分の中でリンクして、キスマークを付けるみたいな感じですね。ドラキュラという言葉は残したかったので、「Drug cure」にして、恋愛のドラッグ感みたいなものを落とし込んでみました。これは本当に過去イチ大変でしたね。でもできあがってみると、リスナーの人にこういうことを伝えたいとか、そういうものとはまったく違いますけど、作詞で物語を作って、印象的なフレーズを考えて、韻を踏んで、複合的に見るとよくできた作品になったと思います」 SOTA「僕は“Everything about you”のところのメロ感がめちゃくちゃ好きです。歌詞も今までにない切り口で面白いし、すごく好きな曲になりました」
――もう1曲の新曲「Hope」は、SOTAさん作詞作曲による素晴らしいゴスペル風ソウルバラード。バラードというか、だんだんリズムが強くなって、ドラムンベースっぽいフレーズもあったりして、壮大な高揚感と共に終わっていく。ドラマチックな曲です。
SOTA「初めはゆっくりだけどバラードにはしたくないということと、ずっと同じセクションを繰り返すけど、最後にガッと開けたどでかいサビにしたいということと、2点を考えながら作曲を進めていきました。それが冒頭にお話しした“SOMETIME’Sとは何ぞや?”という悩みの渦中で、なかなか進まなかったんですけど、プリプロで2日間ぐらい、「Drug cure」と「Hope」の2曲をスタジオで練らせてもらう機会があって。その時に永田こーせーさんに来ていただいて、ようやく道が開けました。そのディスカッションがなかったらできあがってなかったかもしれない」
――どんな話し合いがあったんですか。
SOTA「そこでゴスペルのアレンジにたどりついたんですよ。そもそも僕はSOMETIME’Sを始める時に、コーラスワークをやりたかった、そういう音楽的原点も思い出して、ゴスペルを採用することにしました。昔対バンしたことのあるバンドのコーラスの方に連絡させてもらって、自分を含めた男性二人と女性二人で生のクワイヤを入れてもらいました」 TAKKI「「Hope」は…SOTAが模索しているのを隣で見ていて、今までみたいに僕や藤田がアレンジャーの力を入れ込んでしまえば、全体像が見えてくるだろうと思ったんですけど、きっとSOTAの頭に中に描いてるものがあるんだろうなと。それが下りてくるまで、あんまり手を差し伸べずに乗り切ろうかなと思ってました。だから最後まで全体像が見えなかったんですけど、そこは特に言及せずに、録りながらいろいろ考えていった感じですね。結果、ギターはベーシックなフレーズがメインになりました。ゴスペルのラインと、ホーンが6管ある中で、楽曲の色と構成は決まってるから、温度だけをコントロールする役割みたいな感覚で、割り切ってやった感じです」
――これは、歌詞では何を歌おうと思っていたんですか。
SOTA「ゴスペルというと大きな愛のイメージがあるので、親から子供へというようなイメージはありました。ただ、限定的になりすぎないようには意識したので、近しい誰かがちゃんと思い描けるような曲にはなったかなと思います。第三者ではなく、手を伸ばせば届く距離感の人へのメッセージソングになればうれしいなと思います」
――ライブで聴けるのが楽しみです。
TAKKI「SOTAにも話したんですけど、この曲は、RPGで言うと、自分のレベルが上がらないと使えない剣を手に入れた感覚なんですよ。それ自体にすごく価値があるけど、使うためには自分たちのレベルを上げなきゃいけない。「Hope」という曲に僕もすごく手応えを感じているし、すごくいい曲だと思うんですけど、それを今の僕たちの状況の中でどうやって見せていくか。どういう届け方になるかはわからないですけど、こういう編成の時はこういう見せ方をする、というものはいくつか考えているし、それを考えつくということは、曲の持ってるパワーが大きいということだと思うし、どの方法でもいい聴こえ方になればいいなと思ってます」
――そして1月15日、恵比寿LIQUID ROOMでのリリースパーティー。すごいメンツが揃いました。
TAKKI「ぷにぷに電機さんはIRORIレコーズのスタッフに紹介していただいたんですけど、KroiもYONA YONA WEEKENDERSも、マイメンですね。the chef cooks meは憧れの先輩です。ライバル視はしてますけど、先輩から後輩まで、仲間たちでワイワイできたらなと思います。特に気負いもせずに、「NIST」というライブ自体が楽しいものになればいいかなと思います」
――ちなみに「NIST」って、どういう意味でしたっけ。
TAKKI「僕が提案したんですけど、一流のピアニストとかギタリストとかのイメージで、そういう人たちを常に呼んで、一緒に第一線で活躍したいという意味も込めながら。今後も自分たちが、一流だなと思う人たちを呼んでパーティーができたら最高だなと思ってます」 SOTA「そもそも、さっきお話したエンジニアの照内さんが、サウナがすごく好きなんですよ。一般的にサウナ好きのことをサウナーって言うんですけど、照内さんはサウニストを自称してる」 TAKKI「サウナーよりサウニストのほうが高尚な感じがしない?と言われて、“確かに!”って(笑)。そこからの流れで「NIST」になったのもあります」 SOTA「『Hope EP』のレコーディングのノリみたいなものもちゃんと入ってるし、リリースパーティーのタイトルとしていいんじゃないかと思います」
――そのリリースパーティーから、新しい1年が始まります。2023年のSOMETIME’Sは、どんなふうに進んでいこうと思ってますか。
SOTA「僕らは二人組なので、サポートの方の力を借りることがマストなんですけど、SOMETIME’Sとしてこうしたい、というものをもっとちゃんと提示しないといけないと思ってるんですね。もっと自分のエゴを出して行かなきゃいけないんじゃないかという葛藤が、2022年の1年間にあった気がするんですけど、それってここ1,2年でサポートメンバーが固まって、チームとしてまとまってきたからこそ、そういうことを考えるタームに来てるのかなと思うんですよ。だから2023年はもう一歩踏み込んで、恐れずに、やりたいことをやっていきたいなという気持ちでいます。「NIST」は2022年の集大成としてパーティーでありつつ、2023年の皮切りとして、ここから1年間進んで行けたらいいなと思ってます」
SOMETIME'S - 夏のMagic
[Official Music Video]
SOMETIME'S - Clown
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SOMETIME’S - Somebody
[Official Music Video]